国によってこんなに違う!国別の京都のイメージから考えるインバウンド戦略

UPDATE :
2019. 01. 26
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専門家コラム

SUMMARY

①潜在市場の中から、より望ましい顧客層を、限られたキャパシティの範囲内で受け入れることが重要 
②京都の認知率の高さに応じて「観光資源」→「快適さ」→「日常の魅力」の順で伝えるべし 
③有名観光地としてのブランドが定着しているだけに、相応のサービス整備ができるかどうかが課題 
④パリやローマなどとの差別化のためには、"体験できる"文化というイメージづくりが重要

はじめに

前回の記事では、京都観光総合調査を用いて京都を訪れた方についての分析結果をお伝えしました。このように、京都を選んでいただいた方の興味関心や行動特性を把握する、いわゆる「着地側の調査」を行うことが、マーケティングにおいては重要です。しかしながら、持続可能な観光地づくりを実現するためには、京都を訪れる前段階の人が京都のことをどの程度知り、他の選択肢と比較して何を魅力に感じ、どの様な理由で旅行先として選んでくれているのかといった、いわゆる「発地側の調査」も欠かせません。

今回は、調査時期は少し古くなってしまいましたが、一昨年簡易に実施した調査をもとに、世界各国の観光客の潜在市場規模や、京都に対するイメージについて分析した結果をお伝えいたします。

調査概要

  • 調査時期:平成29年10月13日(金)~25日(水)
  • 調査サンプル:アメリカ、オーストラリア、イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、中国、台湾、香港、日本に在住の20歳以上の男女。各国500サンプル、計5,000サンプルを取得。なお、回答者が性別、年代ごとで可能な限り均等となるよう、割付を行った。
  • 調査方法:WEBを用いたアンケート調査。対象国の登録モニターに対して、アンケートURLの記載されたメールを配信する形で実施した。

京都の観光客数が潜在市場規模に占める割合はわずか2%程度

京都の認知率(今回の調査において、「京都を訪れたことがある」または「京都という観光地を知っている」と回答した人の割合)は、比較的近距離にあるアジアとオセアニアでは8割を超えている一方で、欧米では6割弱でした。多くの人が京都という観光地を認知しており、距離が近いほどその割合が高いことが確認できます。

UNWTO(国連世界観光機関)のデータ[1]によると、国外旅行者数は2020年には世界全体で年間13.6億人に上ると推計されています(このうち半数を欧州が占めている理由は、国外旅行をする経済的な余裕がある人口が多いだけでなく、比較的国土面積が狭い国が多く、EURO圏内における国境を超えた移動の自由が保証されているため、数時間の移動であっても国外旅行扱いとなってしまうという背景によるものだと考えられます)。

今後、人口増や発展途上国の経済成長等により、世界の旅行者は加速度的に増えていくことが予想されていますが、もちろんこれらの全てが京都を訪れてくれるわけではありません。まずは京都という存在を知ってもらうことが条件であり、さきほどの認知率が重要な指標となります。

また、一般的に旅行者の8割は近距離圏、2割が長距離圏へ旅行すると言われているため、日本から見て遠距離圏にあたる欧米諸国の旅行者は、たとえ京都のことを知っていても訪れる可能性は低くなります。ここでは、前述のUNWTOのデータをもとに、旅行者の居住地域ごとの「近距離圏への旅行率」「遠距離圏への旅行率」を算出し、京都に来る可能性がある旅行者数を計算しました。

その結果、京都に対する潜在的な市場規模は下表のとおりとなり、現在の訪日客数の10倍を超える3億人以上の市場が控えていることになります。

[1] 「UNWTO Tourism Towards 2030」https://www.globalwellnesssummit.com/wp-content/uploads/Industry-Research/Global/2011_UNWTO_Tourism_Towards_2030.pdf

仮に京都認知率や距離係数がこのまま2030年まで変わらないと仮定すると、この潜在市場は約5億人に迫る規模にまで膨れ上がる見込みです。

潜在市場規模(万人)
2020年
潜在市場規模(万人)
2030年
米州 3,164 3,955
アジア
オセアニア
25,122 37,946
欧州 5,061 6,184
3地域計 33,347 48,085

潜在市場規模の予測

この市場規模に対して、実際に京都への観光客数がどの程度を占めているかを確認してみましょう。ここでは、京都市が実施する京都観光総合調査をもとにした年間延べ宿泊客数を顕在観光客数として採用しました。

この結果、潜在市場規模に占める京都のシェアはわずか2%程度であるということが分かります。もちろん、京都という街が受け入れることができる観光客数は、宿泊施設や公共交通、観光施設などの容量による限界があるため、潜在市場の全てを受け入れられるわけではなく、2%を限りなく100%へ近づければいいというわけではありません。とはいえ、この広大なマーケットの中に、京都の魅力をより深く理解していただける観光客がまだまだ控えているということを、十分意識して観光地経営に望む必要があります。

観光資源→快適さ→日常の魅力 の順で伝えるべし

では、これらの潜在観光客から、京都という観光地はどのように評価されているのか、が気になる所です。

そこで、今回の調査の中で尋ねた「あなたが京都の魅力だと思う点について、当てはまるもの全てをお選びください。」という設問に対する回答を用い、調査対象の10地域の人々が感じる京都の魅力を分析しました。全体平均では「有名な文化遺産が数多くある」が最も多い回答となり、大方の予想を裏切らない結果となりました。

数値の読み取り方:国・地域別の回答者のうち、京都の魅力として回答している割合を複数回答で集計。たとえば、中国人の回答者のうち39%が、京都の魅力として「伝統的な日本の文化を体験することができる」と回答している、と読み取ります。

ただ、このクロス集計表は項目数が非常に多く、このまま傾向を読み解くのは非常に難しいと思います。そこで、コレスポンデンス分析という手法を用いて、これらの回答結果の関係性を視覚的に把握しやすくしたグラフを作成してみました。このグラフでは、より関係性の近い項目ほど近い位置に配置されることになります。

このグラフから言えることは、以下のとおりです。

  • 京都に対する認知率が比較的低い市場である欧州非英語圏(ドイツ、フランス、スペイン)は「伝統工芸」「伝統文化」「街の歴史」との距離が近く、観光資源の魅力を評価する傾向がある。
  • 英語圏(米国、英国、豪州)は「上質なサービス」や「外国人に優しい(観光しやすい)」「清潔」「治安」といった項目との距離が近く、観光の快適さを評価する傾向がある。
  • 訪日リピーターが多い香港、台湾は、「交通の利便性」「食事」との距離が近い一方で「伝統文化」への関心が比較的薄く、より日常生活の魅力を評価する傾向がある。
  • 同じ中華圏であるにも関わらず、中国は香港や台湾と真逆に位置している。これは主に、宗教的体験に対する回答率が大きく異なることが影響していると考えられる。
  • 日本人は、視覚を通して感じる価値を評価する傾向がある(外国人観光客とのあいだで比較することは必ずしも適当ではないので、あくまでも参考値である)。

以上の結果から、京都に対する認知率が高い市場になるにつれて、「観光資源」→「快適さ」→「日常生活」と、京都に対して感じる魅力のバランスが変化していると考えられます。この傾向を踏まえて、市場ごとに訴求するべき京都のイメージを柔軟に変えていくことが重要です。

有名観光地ブランドに相応のサービス整備が課題

次に、京都の弱みについても、「あなたが京都の弱みだと思う点について、当てはまるもの全てをお選びください。」という設問に対する回答を用いて同様に分析を行いました。

全ての地域で「滞在費用の高さ」についての回答率が上位に挙がる結果となりました。この結果を見ると、ホテル価格をはじめとした物価が高騰することで、観光客が敬遠しているのではないかという懸念をお持ちになった方もいるかもしれません。しかしながら、受け入れ容量に限りがある京都観光において、「量」よりも「質」、「観光客数」よりも「消費額」の最大化が究極の目標であることを考えると、「安価に済ませられる観光地ではない」というイメージが定着していることは、むしろ前向きに捉えるべきという側面もあります。ただし、このイメージにふさわしいだけの価値を観光客に提供できていなければ、逆に「ただ高いだけ」の観光地というレッテルを貼られる危険性があることも忘れてはなりません。

また、日本国内を除けば、「言葉が通じない」ことに対する回答が最も多く、とくに中華圏においてその回答が多いという結果になりました。引き続き、外国語対応の強化が大きな課題であるといえるでしょう。

一方で、日本人のほぼ半数が「混雑している」ことに対して懸念を示しているということが分かりました。注目が集まるオーバーツーリズム問題への対応は、特に国内市場において重要であり、外国人観光客が京都を避ける要因にはなりにくいと言えます。

京都の弱みについてコレスポンデンス分析を行った結果は以下のとおりです。

総じて、先ほどの京都の魅力に対する評価と同様の結果となりました。

欧米諸国は、比較的観光スポットや魅力そのものの不足、文化の違いを懸念しており、魅力の発信に課題があると言えそうです。また、雑然とした街並み、治安の悪さに対しても相対的に距離が近く、アジア諸国の観光客と比べると、これらの衛生的な要素に対しても反応しやすいと考えられます。

一方で、アジア諸国は買い物スポットや体験コンテンツ、名物料理への回答率が相対的に高くなっています。欧米諸国と比べるとリピーターが多い市場であるため、視覚的に分かりやすいイメージよりも、実際に訪れて体験しないと判断しにくいことに対する要求が高まっていると考えられます。

パリ・ローマとの差別化には、"体験できる"文化というイメージづくりが重要

次に、観光地に関する様々な要素に対して、世界の有名観光都市[2]の中から最も当てはまるものを選んでもらい、各地域において最も回答が多かった観光地を比較してみました。その結果、京都は「魅力的な民俗芸能・風習がある」と「自然が美しい」という項目で、全ての地域から最も支持を集める結果となりました。英語圏やアジア諸国では、伝統文化や街並み、ユニークな体験など他の項目でも支持を集めましたが、欧州非英語圏諸国ではパリやローマ等が選ばれており、明らかな差が認められます。これは、京都の強みである伝統・文化の領域においてパリやローマ等のライバルが近場に存在するためであると考えられるため、これらの観光地との差別化が非常に重要であると言えるでしょう。

[2] 京都・東京・ソウル・上海・西安・台北・香港・シンガポール・シェムリアップ・バンコク・パリ・フィレンツェ・ローマ・ミュンヘン・ケルン・ニューヨーク・サンフランシスコ・バルセロナ・シドニー(京都市の姉妹都市を中心に選定)

そこで、全体的に京都の回答割合が低かった、ヨーロッパ非英語圏のフランス・ドイツ・スペインについて、さらに詳しく分析してみましょう。以下の表では、観光地のイメージに対する各観光都市の回答割合を示しています。

19都市中特に回答割合の高かった8都市のみ掲載

フランスは、全体的にパリに回答が集中していることが分かります。ただ、「民俗芸能・風習」「自然の美しさ」では京都がパリを大きく上回っており、ここにパリとの差別化のヒントがありそうでうす。歴史や文化がある古い街としてだけではなく、ヨーロッパにはない芸能や風習があるエキゾチックな街、桜やもみじなどの美しい自然を楽しめる街としてアピールすることが有効だと考えられます。加えて、エキゾチックや自然というキーワードに対して、フランス人が連想する観光地との差別化を進めることが、今後の課題となります。

19都市中特に回答割合の高かった8都市のみ掲載

フランスの隣国ドイツでは、「歴史や伝統文化・文化財がある」街としてローマが最も支持を集めており、京都もパリを抑えて2番目に回答割合が高くなっています。「街並み」についても、京都はフィレンツェと同等の位置であり、パリやローマともそれほど大きな差があるわけではありません。ドイツに対しては、「民俗芸能や風習」「自然の美しさ」に加え、「歴史・文化」「街並みの美しさ」も京都の魅力としてさらに発信していくのがよいかもしれません。

19都市中特に回答割合の高かった8都市のみ掲載

スペインは、パリやローマに加え、自国の都市であるバルセロナや、同じ南ヨーロッパのフィレンツェの回答割合が全体的に高くなっています。「歴史や文化がある」街として京都とパリが同程度であるほか、「自然が美しい」街として京都が他都市を大きくリードしていることが特徴的です。

これら3カ国に共通して言えることとしては、京都に対して「魅力的な民俗芸能・風習がある」というイメージはあっても、それらが実際に鑑賞・体験できるものであるという認識までは至っていないということです。事実、「他の街では体験できないことが多い」という項目で、京都の回答率はパリやニューヨークの回答率を下回っています。今後、欧州の観光客が「体験」という言葉をどのように捉えているのかを探ることで、イメージとユニークな体験を結びつけるような情報発信を進めることが課題といえます。

また、「外国人が旅行しやすい環境」「食事がおいしい」「買い物をできる場所が充実している」という3項目で京都の回答割合が低く、ここに京都の課題があると考えることができます。多言語対応やインターネット通信環境の整備、手荷物預かりサービスなど、すでに京都でも外国人が旅行しやすい環境作りに取り組んでいるものの、他の観光都市に比べるとまだまだ改善する余地がありそうです。京都において外国人観光客が不便を感じるポイントを探ると同時に、他国の取り組みを参考にすることが重要だと考えられます。食の面では、伝統的な和食や京料理の価値を伝え、他都市の食との差別化を図ることも重要ですが、京野菜を使った創作料理やラーメン、バル、カフェ、スイーツなど、欧米の観光客にとっても身近で多様性に富んだ現代の京都の食文化を発信することも必要でしょう。

買い物環境の整備においては、免税店やキャッシュレス決済可能店舗の拡大が求められます。京都市観光協会では、昨年9月に地域情報化推進団体 KICSと連携したキャッシュレス決済の普及推進に取り組むなど、受入環境整備に取り組んでおります。詳しくは、「会員の稼ぐ力を高める事業」の各種案内をご覧ください。

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PROFILE

プロフィール

堀江 卓矢 ほりえ たくや

京都市観光協会 企画推進部 DMO企画主幹

1988年 京都市左京区出身。
京都大学大学院 農学研究科 修士課程修了。
2012年(株)三菱総合研究所 入社。
LCC(格安航空会社)就航に伴う経済効果分析、
東京都における観光戦略策定およびグローバルマーケティング調査、
鉄道各社のコンサルティング業務など、
観光分野を始めとした政策評価や調査業務に従事。
2016年7月から現職。

CONTACT

本コラムに関するお問い合わせ

公益社団法人 京都市観光協会

075-213-1212

horie@kyokanko.or.jp

企画推進部 DMO企画主幹 堀江卓矢

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