職員に聞く!
京都市観光協会(DMO KYOTO)ってこんなとこ 
Vol.1 DMO体制強化のための専門家人材

UPDATE :
2023. 02. 27

SUMMARY

観光庁の制度を活用して京都市観光協会に専門家人材として出向いただいている3名へのインタビューを行いました。近年、当協会の課題であった、インバウンド市場を対象にした「CRM(顧客管理)開発」「商品開発」「販路開拓」などの事業立ち上げの経緯や成果についてはもちろん、これまでの経歴や、京都市観光協会の印象などについてもお伺いしました。

公益社団法人京都市観光協会(DMO KYOTO)は、昭和35年(1960)に設立し、平成29年(2017年)には観光庁よりDMO法人※の認定を受けました。

DMOとなり、コロナ禍を経て、京都市観光協会はいま様々な挑戦の途中です。そんな京都市観光協会の事業を、これから少しずつご紹介してまいります。

今回は、令和3年(2021年)に観光庁の「重点支援DMO」に選ばれたことをきっかけに、京都市観光協会に専門家人材として出向いただいている3名をご紹介します。
いま取り組んでいるインバウンド関連事業や京都市観光協会の印象などについて、お話を聞きました。

観光地域づくり法人(DMO)とは…
地域の多様な関係者を巻き込みつつ、科学的アプローチを取り入れた観光地域づくりを行う司令塔となる法人のこと。

「顧客管理システム」の開発、市場分析へ

濵端祐二
2021年4月より「株式会社ぐるなび」から京都市観光協会へ出向。東京在住のため、週3日テレワーク・週2日京都に出勤というスタイルで、主に京都市観光協会の「顧客管理システム」の開発などに従事。

―まずは、出向元やこれまでの経歴などを教えていただけますか。

濵端 ぐるなびというと、みなさんには「飲食店検索サイト」のイメージが強いかと思いますが、私はぐるなびの中でも、インバウンド向けメディア「LIVE JAPAN」を運営する「LIVE JAPAN企画部」に所属しています。

「LIVE JAPAN」は、交通事業者や商業施設など約60社が参画するインバウンドメディアです。私の担当は、参画企業各社の課題を共有し、業界を超えた新サービスの立ち上げなどを行うことでした。例えば、各社の課題となっていた災害時の情報発信を一元的に多言語で発信できるサービス「災害情報一元化サイト」の立ち上げなどもその一つです。

LIVE JAPAN

鉄道や航空などの交通事業者を中心とした約60の参画社・団体が連携して発信するインバウンドメディア(https://livejapan.com)。災害情報一元化ページはこちら

―京都市観光協会でいま取り組んでいる事業について教えてください。

濵端 私は主に「顧客管理システム」の開発を担当しています。
コロナ禍が始まった2020年6月に、DMOでは新たに事前予約サービス(事前予約で楽しむ京都旅)を開始していて、それまで入手できていなかった顧客情報や予約データを取得することができるようになっていました。そのデータを使い、市場を分析し効果的なプロモーションに繋げていくためのシステムを作っています。

―具体的にこの2年間の仕事内容を教えていただけますか。

濵端 まず初めの一年は、取得データを地道に整理することから始まりました。異なる方法で集めていた顧客データを統一したり、そもそも協会内の体制を整えたり。その後、整理したデータを分析用のソフトに統合して、お客様のこれまでの予約履歴をもとに独自の分析を行い、優先順位の高い約5,000名の方々に対してメールマガジンを配信しています。

濵端 2023年1月には、分析結果をもとにメールマガジン購読者の中でも関心度が高いと思われる人を「京の冬の旅」の内覧会に抽選でご招待しました。直接購読者の方にお会いし、インタビューすることで、これまでデータだけではわからなかった定性的なマーケティング情報も得られ、京都ファンの実態をより具体的にイメージすることができました。

―今後の展開を教えてください。

濵端 これまでお話したのはすべて日本人観光客向けに行ってきたことですが、今後はこのノウハウを生かし、インバウンドメディアや海外エージェント向けニュースレターも配信する予定です。
こちらはまだデータを蓄積している段階ですが、今後インバウンド向けの情報発信・コンテンツ作りやターゲットの選定などに有益な情報を得るための市場分析ツールとして育てていきます。

インバウンド向けの新たな商品開発へ

福永香織
2022年4月より「公益財団法人日本交通公社」から京都市観光協会に出向。現在は京都市に移住し、京都で勤務している。

福永 日本交通公社は、1912年に外客誘致のために設立されたジャパン・ツーリスト・ビューローが元になっています。1963年に営業部門を切り離したのが現在の(株)JTBで、我々は観光・旅行の調査研究を専門とするシンクタンクとして、国や地方自治体、DMO等からの受託業務や、自主財源を活用した自主研究、公益事業などを行っています。
私は「観光政策」を専門にしていて、地域の観光ビジョン策定や施策実施支援、観光協会等の組織再編、観光財源確保に向けた支援などを主に行っていました。また、最近では科研費を活用して「戦前の観光政策」についても研究をしています。日本でいつから観光政策が始まったのか、当時の課題をどういった組織がどのように対応したのかといったことを調べています。今と通じる課題や今でも参考になる取り組みもあって、調べれば調べるほど、面白いですよ。

福永 私は、インバウンド向けのコンテンツづくりを主に担当しています。新しく立ち上げたのが「京都インバウンドカフェ」と「インバウンドイノベーション京都」です。

「京都インバウンドカフェ」は、コロナ禍で途絶えていた事業者同士のネットワークを作りつつ、これからのインバウンド向けコンテンツのあり方を考えるための交流イベントです。DMOが持つネットワークをフル活用してゲストトークや視察を行い、今年度4回開催しました。毎回定員の2倍を超える申込をいただきまして、好評をいただいています。

「インバウンドイノベーション京都」は、インバウンド向け観光コンテンツの造成を伴走支援するプログラムです。京都市内の事業者56件の応募がありましたが、その中から7件を採択し、いま実際にコンテンツ造成の支援を進めているところです。
どのようなインバウンド向けコンテンツであれば、観光客の方に満足してもらいつつ、地元からも歓迎される質の高いものになるのか、観光協会もいま模索しているところです。この事業を通して「こういうコンテンツを観光協会は支援しています」という意思表示ができればと思っています。

―京都市観光協会はこれまで、海外メディアの取材支援やオフィシャルWEBサイトの運営、通訳ガイドの育成などに取り組んできましたが、実はこういったインバウンド向けコンテンツの造成にはなかなか着手できていなかったですね。

福永 重要なことは「コンテンツ造成」とはいっても、観光協会が一プレーヤーとして旅行商品を作るのではなく、あくまでも伴走支援だということです。これは国内観光でも同じだと思いますが、観光協会単独で何かができるわけではありません。京都市全体のコンテンツのレベルを上げるためには、事業者さんそれぞれの意識やスキルを全体的に高める必要があります。その支援をいかにできるかがポイントだと思います。

今回のプログラムでも、いきなり素晴らしいコンテンツを生み出すというよりも、こうしていろんな事業者さんと話をするなかで、業界の課題や実態を把握して、それらに対応するノウハウを蓄積していくことで、京都におけるインバウンド向けコンテンツのあり方を見出せたらという狙いでやっています。

海外への商品流通、そして「ハンドブック」の制作

清水泰正
日本政府観光局(JNTO)勤務を経て、独立し、現在インバウンド戦略研究所 代表取締役。
京都大学経営管理大学院観光経営科学コース修了(2021年3月、経営学修士(MBA))。
2019年京都市観光協会アドバイザー、2022年6月より週2回京都市観光協会に出向として勤務。

清水 私は日本政府観光局(JNTO)に14年間勤務し、その半分以上の9年間を香港やシンガポールなど海外現地で働いていました。旅行会社が介在しない個人旅行の誘客手法に対して問題意識があり、その後起業して、いまは自治体や企業でインバウンド誘客のコンサルタントをしています。
日本人が思う「良いもの」「売れるもの」と、海外現地が考えているものとには必ずギャップがあります。そのギャップを、現地目線で埋めるような仕事です。

清水 京都市観光協会のなかで、私は、出来上がった商品の流通を担当しています。作っただけで終わりではなく、やはり売れることを目指さなければならないので、「まず知ってもらう」「売ってもらう」というPRが必要です。
これまでDMOが持っていたネットワークは国内がメインだったと思うので、今後はこれを海外のマーケットと繋げていって、海外の仲間を増やすことを進めています。

―恐らく多くの事業者さんにとっても海外の事業者との繋がりはなかなか手がかりがないところだとも思います。それを今後、DMOが繋いでいくイメージですね。

清水 国内観光での取組の答えは国内の消費者や事業者にありますが、インバウンドの取組の答えは同様に海外の現場にしかなく、会議室での会議では的確な答えにはたどり着けません。今後商品ができあがってくれば、京都市内の事業者と海外の事業者を上手くマッチングし、商品内容や見せ方を、すり合わせていく作業を行っていきます。

清水 また、これらのコンテンツ作り、流通までのノウハウを事業者の皆様にも還元できる「ハンドブック」の制作も進めています。ハンドブックでは、京都の価値や課題といった一般的なところから、コンテンツづくりの基本、販売方法、そして京都市観光協会の活用方法なども記載します。

―入会したものの、どのようにDMOと関わったらいいかが分かりにくいというお声もあったので、ぜひ活用いただきたいですね。 

清水 はい、こうした事業を通して、京都市観光協会(DMO KYOTO)にしかできない、京都ならではの業界向けハンドブック開発を目指しています。

京都市観光協会に出向して感じたこと

―福永さんはこれまで京都市以外にも他の自治体や観光協会を多く見てこられたと思いますが、京都市観光協会の特徴はありますでしょうか。

福永 京都市観光協会は、自治体も事業者もできないことをやっているなと思っています。例えば、京都市観光協会が毎月発行している宿泊統計(データ月報)。自治体が行う調査だと、結果が出るのは大抵一年後ですが、京都市観光協会は翌月末に、しかも毎月出しているので、事業者の皆さんの経営にも役立てられていると思います。

また、中に入ってみて知ったのは、職員にたくさんのプロフェッショナルがいること。マーケッターもいれば、旅行会社出身の人も、WEBやプロモーションに特化した人もいて、個々の専門が業務に活かされている。
こういったメンバーで構成しているということをもっと京都市内の事業者さんに知っていただいてもいいんじゃないかなと思います。

清水 とにかく広くいろんなことをやっていますよね。民間が商売ベースではできないけれど、誰かがやらないといけない重要なことも担っている、しかし表面には出てこない…。いずれはマーケティングやプロモーションの部分のみに専念できるといいのかなとは思いますが、幅広い仕事量、その縁の下の力持ちとしての存在は誇らしいと思います。

―実際にものすごく色んなことをしているのですが、「京都市観光協会は何をやっているのかわからない」と言われることはよくあります。今後はこのレポートでもっとご紹介していければと思っています。

福永 はい、ぜひ!インバウンドカフェなど交流の場では、事業者の皆さんにとってのインプットや事業者同士の交流機会を提供するとともに、観光協会職員との接点にもなるといいなと思っています。

こうした事業を繰り返すことによって、京都市観光協会が「地域のコンサルタント」としての独自の立場を作っていくこともありえるのではないかと思います。それこそ一事業者にも、自治体にもできない、観光協会にしかできないことだと思います。

―多くの事業者のみなさまに「なにかあったら京都市観光協会に相談しよう」と思ってもらえるように頑張ろうと思います。

今後も、職員インタビューを通して観光協会のさまざまな事業を紹介してまいります。これからますます変化する京都市観光協会の挑戦に、ぜひご注目下さい!

令和4年度「観光地域づくり法人(DMO)の体制強化事業」京都市観光協会における取組の成果 発表動画