リピーター化は3回目が勝負?京都における外国人観光客の「質」向上につながる「おもてなし戦略」

UPDATE :
2018. 08. 31

SUMMARY

ビギナーには「寺社」「自然」などの視覚的な観光資源、リピーターには「文化」「おもてなし」などの抽象的な観光資源が感動体験を生んでおり、こうした趣向の変化に合わせたサービス提供が重要。
長期滞在を増やすためには、欧米系の観光客を維持していく一方で、中国や台湾でも2回目の来訪を終えた方などにターゲットを絞って誘客することが有効。
富裕層に対しては、宿泊サービスのさらなる向上を目指しつつも、宿泊以外のサービスにおける「おもてなし」の向上にも取組の余地がある。

はじめに

京都市では、観光客数や観光客の動向・満足度等を把握することを目的に昭和33年から独自の調査を実施しており、平成25年調査分からは全国統一基準にも合致したより厳密な統計手法を用いて調査結果を発表しています。

今回のレポートでは、最新の調査結果である京都観光総合調査平成29年調査分を用いて、京都観光における「質」に相当する「滞在日数」や「消費単価」の向上にむけて、どのような取り組みが必要となるかを明らかにすることを目的に分析を行いました。

調査概要

京都観光総合調査平成29年調査分(外国人のみ1,674名分)

京都市内の主な観光施設等全6箇所において、調査時期(年4回)を概ね合わせたうえで無作為に調査対象者を抽出し、面接聴取等の方法で実施。

この個票データを京都市から借受け、重回帰分析などの集計を行いました。

分析結果

長期滞在者は欧米からの観光客が多いが、アジア圏にも長期滞在者は一定数存在。

京都滞在日数に影響すると考えられる各種データとの関係を重回帰分析によって調べたところ、欧米やオセアニアなどの長距離圏からの観光客ほど滞在日数が長く、アジアを中心とした近距離圏からの観光客ほど滞在日数が短い傾向がありました。ただし、アジアの中でも、中国や台湾は1~2日程度の短期滞在者もいる一方で、1週間前後の滞在者も多いことがわかりました。

今後、中国を中心にアジアからの訪日客がますます増加することが予測されており、京都府の外国人宿泊客数に占めるアジア比率は2017年の53%から2030年には62%に増加すると予測されています(株式会社三菱総合研究所による推計)。限られた受入容量のなかで「量」よりも「質」を追求する京都観光にとっては、なるべく長く滞在して京都を深く理解していただける観光客が占める割合を増やしていく必要があるため、もともと他地域よりも高い欧米やオセアニアからの観光客比率を維持していくことが重要となります。

また、増加するアジアからの観光客のなかでも、中国や台湾には長期滞在を好む観光客が一定割合存在するので、彼らにターゲットを絞った誘客をしていくことも有効です。こうした観光客は訪日旅行に慣れており、いわゆるゴールデンルート※以外の観光地への周遊にも関心が高いと考えられます。例えば、京都を宿泊拠点として関西各地を日帰り周遊するような滞在旅行を提案してみても良いかもしれません。一方で、大阪の格安宿泊施設を拠点にしつつ、鉄道各社の企画乗車券を使って関西各地を訪れる外国人観光客が増えているとも言われているため、彼らとは異なる客層を狙っていく、といった差別化の観点にも留意が必要です。

※ 訪日外国人観光客にとって定番となっている東京・箱根・富士山・名古屋・京都・大阪という日本の人気5都市を周遊するルート

滞在日数回帰分析結果H29

国別滞在日数分布H29

リピーター化は3回目が勝負

京都来訪回数と滞在日数の関係性を分析してみると、来訪回数1回目と2回目との間には滞在日数に大きな差はありませんが、3回目から長期滞在化が始まるような関係性になっていることがわかりました。

これは逆に考えると、京都は観光資源が多彩であるがゆえに、1回目はおろか2回来訪しなければ一通り有名観光地を制覇することが難しいということかもしれません。そういう意味では、とにかく魅力的で訪れたくなるような観光資源を増やすことを続けることで、再来訪回数を増やすという戦略もありえるかもしれません。国際観光都市であるシンガポールは、まさにこうした考え方に基づいて、マリーナベイサンズやガーデンバイザベイといった新しい観光資源を次々に開発し続けることで、リピーター需要を生み出していると言われています。ディズニーランドやユニバーサルスタジオなどのテーマパークが、定期的に新しいアトラクションを開発しているのも、これと同じ考え方によるものです。

とはいえ、魅力的な観光資源を開発し続けることはそう簡単ではありません。ここ10年で急激に有名観光地へと変貌した伏見稲荷大社のような観光地を、新たに意図的に作り出すのは至難の業といってもいいでしょう。そこで取りうる戦略は、観光資源の「量」ではなく、リピーターにはリピーター向けに「質」の異なる観光体験を訴求してあげるというものです。「量」よりも「質」を追求する京都観光にとっては、こちらの考え方のほうが馴染みが深いのではないでしょうか。(リピーター向けの観光体験についての分析は、後述します)

宿泊以外で富裕層が消費したくなるサービスの提供が課題

ビジネスクラスやファーストクラスを利用する所得水準が高い観光客は、他の観光客と比べて消費単価(宿泊費を含む)が高い傾向が認められました。しかし、日帰り客も含めて宿泊費を含まない消費単価で分析を行うと、この傾向は認められませんでした。したがって、所得が高い人ほど宿泊費が高くなる一方で、買物代や飲食費が高くなるとは限らないと言うことができます。

つまり、消費単価をさらに向上させるためには、富裕層が好むより高額な客室・宿泊サービスの開発を強化する必要があることはもちろんですが、富裕層が消費したくなるような物販や飲食サービスが不足しているということも考えられます。

たとえば、2017年に祇園で開店した「ウブロブティック京都」のように、世界的に有名なブランドの店舗が進出しやすい環境を整えていくことが、短期的に有効な取組です。また中長期的には、あらゆるサービスの付加価値の源泉である、接客レベルの向上も必要になってきます。その一環として京都市観光協会では、観光客と対面でのコミュニケーションの専門家となる認定通訳ガイド「Kyoto City Visitors Host」の育成に取り組んでいます。こうした取組を、通訳ガイド以外の分野においても広めていくことで、富裕層のニーズに街全体で応えられるようにしていきたいと考えています。

ビギナーには視覚的な観光資源、リピーターには抽象的な観光資源

外国人観光客が感動したことに関する自由記述を分析した結果、感動の対象は「神社仏閣や歴史的建造物」「自然・景観」「町並み」「文化歴史」「人・おもてなし」「食事」「その他」に分類することができました。これを、京都観光経験別別に比較してみると、初来訪者ほど「神社仏閣や歴史的建造物」「自然・景観」「町並み」といった、視覚的な観光資源に対する回答が多く、リピーターほど「文化歴史」「人・おもてなし」「食事」といった体験を伴う複雑な価値に対する回答が多い傾向となっていました。初来訪者とリピーターとでは、感動してもらうために訴求するべき要素が異なるということであり、前述のリピーター対策を検討するうえで非常に重要な気づきだといえます。

これを踏まえて、京都市観光協会では観光客の来訪経験やWEBサイトの閲覧状況などのデータを収集し、京都観光初心者には初心者向けの、上級者には上級者向けの情報発信を行う手法の開発に取り組むべく準備を進めております。このように、顧客の情報を管理して情報発信を最適化することを、CRM(Customer Relationship Management)と呼びます。消費財メーカーなどでは古くから導入されてきましたが、観光業界では観光客の行動全てを捉えることが難しいということもあるためか、航空会社や大手ホテルなど一部の事業者での導入に留まっており、自治体やDMOでの取組は発展途上です。

「質」の高い観光体験を提供していくためには、新しい技術を活用しつつ、こうしたリピーター化による趣向の変化に応えていくことが、今後ますます重要になってくると言えます。本コラムでも、こうした技術活用や手法に関する情報発信を継続して行ってまいります。

外国人観光客の感動した場面についてのテキストマイニング結果H29

外国人観光客の感動した場面についてのテキストマイニング結果

FILE DOWNLOAD

分析のもととなった統計調査については、こちらからダウンロードをお願いします。なお、調査個票の貸出は、京都市産業観光局 観光MICE推進室までお問い合わせください。

PROFILE

プロフィール

堀江 卓矢 ほりえ たくや

京都市観光協会 企画推進部 DMO企画主幹

1988年 京都市左京区出身。
京都大学大学院 農学研究科 修士課程修了。
2012年(株)三菱総合研究所 入社。
LCC(格安航空会社)就航に伴う経済効果分析、
東京都における観光戦略策定およびグローバルマーケティング調査、
鉄道各社のコンサルティング業務など、
観光分野を始めとした政策評価や調査業務に従事。
2016年7月から現職。

CONTACT

本コラムに関するお問い合わせ

公益社団法人 京都市観光協会

075-213-1212

horie@kyokanko.or.jp

企画推進部 DMO企画主幹 堀江卓矢

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