日本人リピーターの実態分析 ~京都ファンは混雑を避けてスマートに観光~

UPDATE :
2019. 10. 18

SUMMARY

昨年は災害の影響で全国的に日本人観光客が減少するなか、京都への観光客の減少が限定的であったことは、入洛経験10回以上というリピーターの存在抜きには語れません。今回の分析によると、リピーターは主要観光地以外のスポットを訪れる傾向が強く、市バス以外の交通機関も組み合わせて移動していることが分かりました。また、京都への訪問頻度も多いため、通算の消費額も大きく経済的にも貢献度が高いと言えます。

この記事は、2019年7月25日に広報発表した「京都観光総合調査等を活用した京都観光の最新動向詳細分析結果について」に関する内容を、4回に分けて解説する連載記事です。

第1稿:データから見る京都観光の現状と満足度の実態
第2稿:日本人リピーターの実態分析 ~京都ファンは混雑を避けてスマートに観光~
第3稿:訪日市場を牽引する京都のインバウンド動向 ~京都のライバルはどこ?~
第4稿:訪日リピーターによる地方周遊化への対応

日本人客は全国的に減少するも、京都の減少幅は限定的

平成30年(2018年)の京都の日本人観光入込客数は、前年と比べて日帰りが2.3%の減少、宿泊が6.0%の減少となりました。これを見て、外国人客の急増にともなって日本人客が減少しているのでは?と心配されている方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、日本人客が減っているのは京都だけではありません。観光庁の旅行観光消費動向調査によると、日本全体での日本人観光客数は、日帰りが16.7%の減少、宿泊が9.7%の減少となっており、京都の減少幅を大きく上回っています。これは、昨年夏の大阪北部地震や西日本豪雨による需要の落ち込みが原因だと考えられます。近隣地域が被災したにも関わらず国全体と比較して京都では影響が少なかったことを考えると、日本人客が京都への旅行を避けているとは一概には言い切れないでしょう。

リピーターは主要な観光地以外にも訪問し、需要の分散化に寄与

日本人客の訪問回答率が10%未満のエリアを周辺エリアと定義した場合、宿泊客に限っては京都訪問経験が多くなるほど周辺エリアの訪問率が高くなる結果となりました。京都観光の経験が豊富な人が増えれば増えるほど、人気観光地以外の場所を訪れる人が増えるため、リピーターの開発が需要の分散化につながると考えられます。

日帰り客は1回の観光で訪問する箇所数が少ないため、主要エリアのみを訪問するときもあれば、周辺エリアのみを訪問することもあります。したがって、1回の旅行で両方のエリアをまとめて周遊することが多い宿泊客と異なり、日帰り客は入洛経験が豊富だからといって周辺エリアの訪問率が必ずしも高まらないのだと考えられます。

次に、訪問地間を移動する際に利用されている決済手段について確認してみましょう。集計結果によると、基本的には「交通系ICカード」と「現金」のどちらかが利用されていることが分かります。その次に多いのが、バス一日乗車券です。京都市バスの大半の路線を一日中乗り放題で利用できることから、観光客はもちろん京都市民にも広く普及しています。このため、観光地の最寄りを通る一部の路線では乗客の利用が集中し、車内混雑が課題となっています。

こうした状況を受けて、京都市交通局では特定の市バス路線へ集中する利用客に市営地下鉄の利用を促すこと等を目的として、平成30年(2018年)の4月に、バス一日乗車券の料金を500円から600円に引き上げるとともに、バス・地下鉄一日乗車券の料金を1,200円から900円へ値下げしました。この影響で、バス一日乗車券の利用率は前年の23%から16%へ減少し、利用交通機関の分散が進んだと考えられます。

なお、バス一日乗車券の利用率を入洛回数別に比較すると、入洛回数が多い人ほど利用率が低くなる傾向があります。したがって、訪問スポットの分散と同様に、交通機関や決済手段の選択においても、入洛経験が豊富な人のほうが多様な選択行動をとっている可能性があると考えられます。

日本人客の移動経路として最も多かった組み合わせは、京都駅と河原町周辺の間での移動でした。ゲートウェイである京都駅と、最大の繁華街である河原町周辺のあいだは、市バスと市営地下鉄烏丸線での移動が多くなっています。

次に回答が多かった京都駅から清水寺への移動では、市バスの利用者が大半を占めています。他の交通機関を利用した経路が無いわけではありませんが、観光客にとっては実質的に選択肢が限られてしまっており、当該経路上のバス路線における混雑が発生していることが課題となっています。ただし、清水寺から京都駅へ戻る経路では、市バスの利用率が減りタクシーの利用率が高まっていることから、往路と復路で交通機関選択のニーズが異なる可能性があることも分かります。

京都駅と伏見稲荷の間ではJRの利用が過半数を占めています。京都駅と二条城の間では市バスや地下鉄の利用が多いものの、比較的偏りが少ないことから、交通機関の選択肢が多く、乗り継ぎ利用も多い経路であると考えられます。

オーバーツーリズムの解消に向けた取り組みは、訪問先の分散化だけではありません。人気観光地の多くは昼間の時間帯に観光客が集中するため、これを早朝や夜間に分散させることも重要です。そこで、今回の京都観光総合調査からは、観光地を訪問した時間帯についても聞き取りを行い、実態の把握ができるようになりました。

その結果、早朝の時間帯は、早朝6時から拝観が可能なことで知られる清水寺の訪問率が、他の訪問スポットに比べて高くなっていることが分かりました。また、昼前後は二条城が上位にランクインし、夜は帰路につく前に京都駅周辺に滞在する方が増える傾向にあることも読み取ることができます。

夜間は、河原町や四条烏丸、四条大宮、先斗町といった飲食店が集中するエリアの回答が多くなっています。なお、京都観光総合調査の実査が行われた日にたまたまライトアップイベントが開催されていた下鴨神社が、18~21時の時間帯にランクインしており、こうした夜間のイベントの影響が現れていることも確認できました。観光客に対して朝や夜の時間帯の楽しみ方を提供し、より長い時間の滞在を促していくことが引き続き求められます。

入洛頻度を考慮した消費額の年間期待値について

京都観光総合調査では、観光客が1回の滞在での一人あたり平均消費額を集計しており、平成30年(2018年)は日帰り客が10,132円、宿泊客が52,795円、全体で20,931円という結果となっています。こうして見ると、宿泊客の消費額が日帰り客の5倍以上となっており、宿泊客による消費が大きく感じられます。ただし、宿泊客は1回の滞在あたり少なくとも2日以上滞在する一方で、日帰り客は1日しか滞在しないため、滞在期間が長い宿泊客のほうが、必然的に消費額が大きくなることには留意が必要です。そこで今回は、同じ滞在期間に換算して消費額を比較するため、滞在1日あたりの消費単価による分析を行うこととしました。

また、京都観光総合調査では消費額の平均値が採用されていますが、極端に高い消費を行っている回答者が存在すると平均値が高くなってしまう可能性があるため、より実感に近い消費水準を把握することを目的に、中央値を指標として採用することにしました。

その結果、日帰り客と宿泊客の消費単価は概ね2倍程度の差であることが分かりました。また、日帰り客の場合は、入洛経験が浅い方のほうが、消費単価が高い傾向にあることも分かりました。

観光消費額を分析するうえでもう一つ重要なポイントがあります。それは、消費単価が小さくても、頻繁に京都を訪れる人は、累計消費額が大きくなるということです。たとえば、消費単価が2,000円と少なくても毎月京都で観光する人であれば、1年間の消費額は24,000円となります。一方で、消費単価が100,000円と高額であっても、4年に1度しか来ない人は、1年あたりの消費額は25,000円となります。消費単価が2,000円と100,000円という大きな差があっても、1年間に期待される消費額にするとほとんど変わらないと評価できます。

そこで、京都への訪問頻度に対する回答結果をもとに、仮に今回の観光総合調査で回答された観光消費行動を、回答者が毎回京都を訪れる度に同様に行っていると仮定をしたうえで、年間期待消費額として算出してみました。その結果、日帰り客の場合は、入洛回数10回以上のほうが入洛回数10回未満の2倍程度の消費額となり、大小関係が逆転しました。また、宿泊客の場合も入洛回数が多いほうが、消費額が多くなっていることから、リピーターほど入洛頻度が高く、累計の消費額が大きくなりやすいということが分かりました。

平成30年(2018年)の日本人入洛客の実人数は4,470万人で、その約半数は入洛回数10回以上の日帰り客です。一方で、日本人の観光消費額9,357億円をさきほど算出した期待観光消費額をもとに按分を行うと、宿泊客が占める割合が7割以上にまで拡大します。また、入洛10回以上のリピーターも、人数ベースの構成比よりも消費額ベースでの構成比のほうが拡大することになります。したがって、宿泊客やリピーターの開発が、少ない人数で高い経済効果をもたらすことに繋がると言えるでしょう。

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PROFILE

プロフィール

堀江 卓矢 ほりえ たくや

京都市観光協会 マーケティング課 DMO企画・マーケティング専門官

1988年 京都市左京区出身。
京都大学大学院 農学研究科 修士課程修了。
2012年(株)三菱総合研究所 入社。
LCC(格安航空会社)就航に伴う経済効果分析、
東京都における観光戦略策定およびグローバルマーケティング調査、
鉄道各社のコンサルティング業務など、
観光分野を始めとした政策評価や調査業務に従事。
2016年7月から現職。

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マーケティング課 堀江

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