インバウンドで食の多様性に対応してきた経験が、新規事業の成功のカギに

UPDATE :
2021. 05. 11

SUMMARY

2020年11月、河原町丸太町にオープンしたKAMOGAWA BAKERY。ヴィーガン、ハラールといった多様な食文化への対応、環境負荷低減のための対策、withコロナ時代に即した非接触システムの導入など、京都観光モラルを具現化する先進的な取り組みを行っている。外国人観光客に人気のラーメン店経営から一転、新規事業としてベーカリーを立ち上げた経緯や事業にかける思いを宮澤心社長に伺った。

多様な食文化を尊重し、誰もが楽しめるお店に

ジャパンフードエンターテイメント株式会社はこれまでインバウンドを中心に事業を展開してきた。ラーメン店「めん馬鹿」は約80%、体験施設「ラーメンファクトリー」は約99%の利用客が外国人観光客だったためコロナ禍の影響が大きく、2020年4月から休業せざるを得ない状況になった。(※「めん馬鹿」は2021年3月に営業再開)

「あの頃の桜は、僕には灰色に見えていました。きれいに咲いているはずの桜が、全然きれいに見えなかったですね」と宮澤さんは当時の心境を語る。

しかし立ち止まってはいられないと、国内客向けの新規事業立ち上げを決意。パン文化が根付く京都で、他店と差別化を図るため何かに特化したベーカリーをと考え、ベーグルをメインとするKAMOGAWA BAKERYをオープンした。

メニューは種類豊富なベーグルやベーグルサンドのほか、食パン、総菜パンなど。大きな特徴は、商品の8割がヴィーガン、6割がハラールに対応していることだ。

「みんなで同じテーブルを囲んで食事を楽しめるようにしたい。そんな理念の下、ラーメン店でも食の多様性に取り組み、ヴィーガンやハラールに対応したメニューを用意してきました。ベーカリーも同様に、多様な食文化を尊重する店でありたいと考えました」

しかしパンと言えば牛乳や卵、バターをたっぷりと使うイメージ。ヴィーガン対応において苦労した点はなかったのだろうか。

「ベーグルはもともと卵・牛乳・バターを使わないヴィーガン食なんです。だからこれまで私たちが取り組んできたこととの親和性が高かった。難しかったのは食パンですね。近年ブームとなっている高級食パンは、生クリームやバターをふんだんに使ってリッチさを競っています。それらを排除しておいしい食パンに仕上げるため、職人がかなり苦労しました」

試行錯誤を経て完成した食パンをはじめ、卵や乳製品を使用しない商品はヴィーガンの方だけでなくアレルギーを持つ方にも喜ばれているという。

「日本では全人口の1~2%がアレルギーを持っていると言われています。中でも小児期において特に多いのが卵・牛乳のアレルギー。今まではアレルギーでパンを食べられなかった方が、当店のパンなら食べられると非常に喜んでくださっています。インバウンドで培ってきた食の多様性に関する知識と経験が、国内客の獲得にもつながったと感じています」

 

ただし、ヴィーガンやハラールへの対応を大きく打ち出してはいないと宮澤さんは続ける。

「僕自身はヴィーガンではないので、ヴィーガンをうたっているお店だと入りづらいと感じてしまうこともある。そうではなく誰もが入りやすいお店にしたいんです。おいしいパン屋さんがあって、お店に入ってみたらヴィーガン対応もしていると気付く。じゃああの人に買って行こうとか、紹介してあげようとか、そうやってつながっていくのが良い形だと考えています」

「誰もが入りやすいお店に」という考え方は、ラーメン事業でも実は同じだったという。

「もともとインバウンド向けの店を作ろうと思ったわけではないんです。国内だけでなく海外の方にも楽しんでもらいたいと、多言語メニュー、キャッシュレス、Wi-Fiなどの対応を進めていくと、いつの間にか外国人観光客が増えてインバウンドの店になっていた。みんなにやさしいお店、みんなが楽しめるお店を目指した結果なんです」

観光客それぞれの文化や生活習慣をよく理解し、おもてなしの心でサービス・商品の質を高めていく。そんな京都観光モラルの考え方を具現化することが、多くの外国人観光客に愛される事業につながり、そこで得た知識や経験がさらに国内客向けの事業でも生かされている好事例。宮澤さんの店づくりの姿勢や多くの取り組みは、他の事業者にとっても参考になりそうだ。

環境保全やwithコロナ時代への対応も先進的

宮澤さんは京都観光モラルが掲げる環境保全にも積極的に取り組んでいる。

「ラーメン店で多くの外国人観光客の方と接する中で、環境問題に対する日本と欧米の感覚のずれを感じてきました。以前はプラスチック容器も使用していましたが、欧米の方から『まだプラスチックを使っているの?』と指摘される機会も多く、プラスチックごみの削減やグリーン電力への移行を始めました」

KAMOGAWA BAKERYではプラスチック削減のため、紙袋、紙ストロー、プラスチック蓋の要らない紙カップを採用。グリーン電力の使用や、肉食を減らすレスミートの実践によるCO2の排出量の削減も行っている。

「環境保全にも真剣に取り組んでいかないと、これからの時代において持続可能な経営は成り立たない。CSRやボランティアとしてではなく、ビジネスの中にうまく組み込んで継続していくことで、共感する人が集まり、さらに周りに波及していくのが理想的だと考えています」

こうした取り組みに対する反響について尋ねると、「お客さまにとって付加価値になっている。店舗の近隣には小学校もあり教育に力を入れている人が多いエリアなので、SDGsへの関心も高いように感じます」と宮澤さん。お客さまに向けてだけでなく、従業員に対して気付きを与えるという面でも意義があるという。SDGsへの積極的な取り組みは従業員教育の一環でもあり、ひいては良い人材の獲得にもつながっていくのだろう。

また、KAMOGAWA BAKERYは感染症対策においても先進的な取り組みを行っている。商品注文時にお客さまと店員の完全非接触を実現するため、店内にトングはなく、ショーケースの中に商品サンプルが並ぶ。利用客は商品を選んでタッチパネルで注文し、支払いもスタッフの手を介さず完了するという、withコロナ時代に対応したシステムだ。さらに、このシステムの場合、一般的なベーカリーのように商品を店内に大量に陳列する必要がないため、フードロスの削減にもつながっている。

同じ志を持つ仲間たちと歩み続ける

インバウンド向けの事業がコロナ禍により大きなダメージを受けたにも関わらず、自分たちに今できることは何かと、前を向いて歩み続けてきた宮澤さん。その原動力はどこから湧き上がってくるのだろうか。

「事業者としてできることは、事業を小さくして赤字を出さないようにするか、逆にどんどん投資して展開するか、どちらかしかないんです。前者を選択することもできましたが、それではせっかく出会った従業員の仲間たちとの縁が切れてしまう。彼らと一緒に生き残っていくためには、投資して新しいことをやっていくしかないんです

 KAMOGAWA BAKERYは河原町丸太町の1号店に続き、2021年2月には滋賀県・膳所に2号店をオープン。さらに今後はセントラルキッチンを構え、フランチャイズ展開を計画しているという。

「SDGsに関心のある事業者さんも増えているので、同じ志を持つ人を集めて、今まで培ってきたノウハウを生かして展開していきたいです。いずれインバウンドが戻ってきた時には、海外の方も日本の方も一緒に楽しめるような調和のとれた店になれば良いですね」

「みんなで同じテーブルを囲んで食事を楽しめるようにしたい」。そんな思いで事業を展開してきた宮澤さんは、再び外国人観光客が京都を訪れるようになった時、市民生活と調和のとれた京都観光が実現する未来を思い描いている。

京都観光行動基準(京都観光モラル)について

京都市及び公益社団法人京都市観光協会(DMO KYOTO)では、持続可能な観光をこれまで以上に進めていくために、「京都観光行動基準(京都観光モラル)~京都が京都であり続けるために、観光事業者・従事者等、観光客、市民の皆様とともに大切にしていきたいこと~」を策定いたしました。今後、京都観光に関わる全ての皆様が、お互いを尊重しながら、持続可能な京都観光を、ともに創りあげていくことを目指しております。

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