長年の外国人向け事業の実績を活かし、地元向けに英語絵本販売を始めた理由

UPDATE :
2021. 05. 11

SUMMARY

アミタ株式会社は1932(昭和7)年の創業以来、日本の伝統工芸品を海外に向けて販売してきた。三代目である網田知邦社長は、外国人を対象に事業を展開してきた同社の強みを生かして地域の子どもたちの英語教育に貢献したいと、運営する京都ハンディクラフトセンターの一角に「英語の絵本 SAIKA」をオープン。「市民生活と観光の調和」の実現に向けた取り組みから、これからの観光事業者に欠かせないマインドが見えてきた。

自社の強みを生かした地域貢献を

コロナ禍以前の京都ではインバウンドが増加し、異業種から観光業界への参入も増える一方。しかし、インバウンドという言葉が使われる前から外国人観光客を対象とする事業に関わってきた網田さんは、今の状況がずっと続くわけではないと、その先を見据えて考えを巡らせていた。

 「インバウンドが増えて観光業への参入が他業種にわたるようになっていたので、そこだけをターゲットにしていては長く生き残れないと感じていました。オーバーツーリズムの問題も発生する中、地域コミュニティへの還元や貢献ができるようにならなければ事業は成り立たない。地域や社会全体から支持され認められて初めて、観光客にも認められるのではないかと考え、何ができるか模索していました」

 観光事業者として、地域にどのような貢献ができるのか。網田さんが考えたのは、子どもの英語教育に携わる事業だった。

 「当社は主に欧米人を対象に事業を行ってきて、スタッフもみんな英語が話せる。この強みを生かして、英語の絵本を使った空間で子どもたちの英語教育をお手伝いする事業を立ち上げようと考えました」

2019年の終わり頃から構想が始まり、2020年3月の開業を目指して準備をスタート。コロナ禍による延期はあったものの、8月には英語の絵本を約1,000冊取り揃える空間「英語の絵本 SAIKA」が無事オープンを迎えた。

 「目指したのは英語の本屋さんではなく、英語の本がある空間。だから店名も本屋ではなく『英語の絵本 SAIKA』としました。今はインターネット上でも本を買ったり読んだりできる時代ですが、リアルな空間で実際に本にふれて紙の手触りや匂いを感じることが、子どもの興味・関心を高める上で重要だと考えています」

 網田さん自身も5歳と3歳の子を持つ父親。子どもが絵本をきっかけにどんどん英語を吸収していく姿を目の当たりにしているという。

 「5歳の娘は毎朝10分ほど英語の絵本を読んでいるのですが、こんなに上手になるんだと驚いています。自分が興味のある本を手に取って、初めは意味が分からなくても読み上げているうちに英語のベースができていくんですね」

SAIKAでは子どもの年齢や性別、趣味嗜好、保護者が英語を話せるかどうかなど、スタッフがヒアリングしながら絵本選びをサポートしている。さらに今後は顧客管理を進め、継続的にコミュニケーションを取れるような仕組みを作りたいと網田さんは語る。

「顧客リストを作成して、たとえば読み聞かせ会の告知をしたり、お客さまの声からイベントを企画したりして、相互コミュニケーションを深めていきたいです。近隣に小学校もあるので、地域と連携した取り組みもできるように働きかけていく予定です」

今は感染症対策のため実現していないが、いずれ取り組みたい計画もたくさんあるという。

「本の貸し出しや遊具の設置など、本を販売するだけではない空間づくりを進めていきたいです。外国人観光客が再び京都を訪れるようになった時には、彼らと地域の子どもたちがリアルに交流できるような場になれば良いですね。外国人の方におすすめの絵本についてコメントを書いてもらうなど、子どもたちとの交流が生まれるような仕組みを考えていきたいです」

アミタ株式会社ならではの強みを生かした地域貢献の取り組みはまだ始まったばかり。これからもますます広がっていきそうだ。

持続可能な経営のために行動し続ける

戦前から外国人を対象とした事業を展開してきたアミタ株式会社。事業を続ける上でどんなことを大切にしてきたのだろうか。

「私たちはただものを売るのではなく、お客さまの旅をより価値のあるものにすることを大切にしてきました。ここは思い出を作る場所であり、その思い出が人生を豊かにする。だからこそ顧客の経験価値を最大化しなさいと、常々スタッフに伝えていますし、その思いが浸透していると感じます。お客さまに寄り添う姿勢が会社の風土として根付いていますね」

観光客が感動し、京都を再び訪れたいと思っていただけるよう、おもてなしの心でサービス・商品の質を高めていく。そんな京都観光モラルの考え方を自然に実践してきたからこそ、90年近い年月を経て支持され続けているのだろう。

京都観光モラルの他の項目についても話を聞くと「やはり市民生活との調和は、これからの観光事業者にとって必須」と網田さん。

「観光は常に右肩上がりではなく、災害や感染症、国際情勢など様々なことから影響を受ける業界です。市民生活と調和しながら地域にしっかり貢献しないと、事業を長く継続していくことはできないと思います」

さらに今後は、地域に貢献しながら観光の不足も補えるような事業ができないかと模索しているという。

「当社が拠点を置く岡崎は動物園や美術館がある文化的なエリアですが、飲食施設は足りていないように感じています。私たちはこれまで団体観光客を受け入れてきた広いスペースを持っているので、うまく活用して地域に開放できないかと。たとえばスマートフォンで混雑状況をチェックして、密にならない空間で安心して食事をしたり、インターネットでオーダーした食事を待たずにテイクアウトしたりできるような、今の時代に合ったシステムを導入した飲食施設ができればと考えています」

また、長く携わってきた伝統工芸の分野でも、サブスクリプション型レンタルサービスの導入など新たな展開を考えているという網田さん。従来の販売方法にこだわらず、消費者が伝統工芸品にふれる機会をもっと広げることで、数が減りつつある職人たちを守りたいと業界への思いを語ってくれた。

常に一歩先を見据え、次々と新しいアイデアを生み出し行動し続ける網田さんの姿は、持続可能な観光、持続可能な経営を目指す他の事業者にも多くのヒントを示してくれているのではないだろうか。

京都観光行動基準(京都観光モラル)について

京都市及び公益社団法人京都市観光協会(DMO KYOTO)では、持続可能な観光をこれまで以上に進めていくために、「京都観光行動基準(京都観光モラル)~京都が京都であり続けるために、観光事業者・従事者等、観光客、市民の皆様とともに大切にしていきたいこと~」を策定いたしました。今後、京都観光に関わる全ての皆様が、お互いを尊重しながら、持続可能な京都観光を、ともに創りあげていくことを目指しております。

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