~京都観光事業者インタビュー~
株式会社スノーピーク

UPDATE :
2021. 11. 02

SUMMARY

新潟県燕三条にて金物問屋として1958年に創業した株式会社スノーピーク。オリジナル登山用品の開発をきっかけに、アウトドア総合メーカーとしてキャンプ文化を多角的に牽引し、コロナ禍に伴うアウトドアレジャーブームも相まって世間の耳目を集めている。そんな絶好調の企業が、2020年8月にショップとカフェ、宿泊施設を併設した〈Snow Peak LAND STATION KYOTO ARASHIYAMA〉をオープンした。観光の街、京都で新事業を展開するにあたり、どのような思いで地域とのつながりを深めていったのか。京都の「外」から来たからこそ見えたであろう、現場の声を副店長の澤奈央実さんに訊いた。

京都、嵐山の土地の文化や、伝統をつなげるような存在に

「私たちはキャンプメーカーとして知られていますが、外でご飯を食べて泊まることだけでなく、自然を近くに感じられることに重きを置いているので、「キャンプ」ではなく「野遊び」という言葉を掲げているんです。まだアウトドアに触れたことのない方が多く訪れる場所に出店することで「野遊び」の素晴らしさやこの地域にある豊かな自然や文化を伝えたいというのが、この店を立ち上げた理由のひとつです。」と澤さんは話します。

「本当に欲しいものを自分でつくる」という志でものづくりにこだわり、「人生に、野遊びを。」というコーポレートメッセージを提唱。スノーピークではアウトドアをライフスタイルとしてとらえ、キャンプ製品だけでなく、体験施設や体験サービス、アパレル事業、食事業、キャンピングオフィスなどのワークスタイル提案、そして地方創生など新たな領域を切り拓き、自然と人、人と人とをつないでいる。そんな彼らが、今回そんな「野遊び」の精神を共有する場所として選んだのが、京都の観光名所のひとつである嵯峨嵐山だった。

風光明媚な自然に、長い歴史が積み重なった京都嵯峨嵐山。なかでも“その土地に深く根づく、人生と野遊びの案内所”としてスノーピークが選んだのは、築100年となる大正時代に建てられた料理旅館であった。

「この料理旅館は、何年か前に廃業されてしまっていました。今回の出店のご相談をさせていただいた際に、取り壊さずに昔の建築をできるだけ後世に残したいという持ち主の方の意思と当社社長の想いと合致したため、この建物をできるだけ保存した状態でお店としてリニューアルすることになりました。」

そんないきさつもあり、柱や梁、左官壁や石畳など本来の姿を最大限に活かしリノベーションされたという。店内も、旅館の面影をそのままに、キャンプ道具や洋服などの商品が展示されている。昔の旅館の姿を知る人がこの場所を訪れ、思い出話に花を咲かせることもあるそうだ。

後世に伝統技術を伝えるために、出会いの場をつくる

ものづくりを出発点とするスノーピークでは、これまでに後継者がいないために良い技術が伝承できない現場を目の当たりにしてきたそうだ。そんな経験もあり、ここ京都でも同じように伝統工芸の文化を広めいきたいと思っている事業者とコラボ商品を開発・販売している。しかも、ただ販売しているだけではないという。

「敷地内にある隈研吾さんとスノーピークが共同開発したモバイルハウス「住箱-JYUBAKO-」では宿泊プランもご用意しているのですが、ここで宿泊いただいた方のお部屋の調度品として、コラボした伝統工芸品を使っていただけるようにしています。スノーピークに宿泊しながら京都の文化に触れることができるので、驚きもあるのではないでしょうか。嵐山に泊まる付加価値を感じてもらいたいと思っています。」と語る澤さん。例えば、和傘屋の辻倉の蛇目傘や開化堂の茶筒など京都でつくられた伝統工芸品と人が出会う場も提供しているのだ。

コロナ対策や環境保全も積極的に実施

コロナ禍の最中にオープンした店舗ということで、感染対策について伺ったところ、「毎朝、スタッフは自分の体調報告と検温をするのですが、その結果が一元管理できるシステムになっています。宿泊されるお客様に向けては、事前連絡をかねて体調をお伺いするアンケートを実施しています。」と独自に実施している対策について話てくれた。

また、アパレル事業では環境保全の取組にも力を入れていて、不要になった衣類やテントなどの回収を専門業者と一緒に行っているという。「回収した繊維を分解し、新しい糸につくり変え、新たな衣類に生まれ変わらせて販売しています。」と話してくれた。コットンの回収から製造・販売までを自社で一貫して行う取り組み「UPCYCLE COTTON PROJECT」も、業界として初めての試みであるそうだ。

人と人とのつながりを活かし、この地の魅力を伝えたい

出店を計画した当初はインバウンド需要も見込んでいたが、コロナ禍の影響で海外はおろか国内の遠方からの来訪も見込めないため、現在の主要な顧客層は、近隣地域の観光客や住民だ。

「コロナの影響で、京都市内の方が嵐山にいらっしゃるようになりました。何十年ぶりに嵯峨嵐山を訪れたという方も多く、近くの魅力を再発見しようとするニーズがあるように思います。」と近況を語る。

遠方はもちろん、近くに住んでいる人からリピートされる拠点をつくっていくためにも、スタッフとお客様、そして地域とのつながりをつくることを意識して、積極的に地元の人たちとの関係性をつくっているという。その一つが、店舗の商品や店内で提供するカフェを利用しながら、地元のおすすめスポットを巡る「Snow Peak GO」という散策プランだ。

「私たちが持っている強みは、自然の楽しみ方と道具。地域の魅力や、散策のコツをもっともよくご存知なのは地元の方です。そこで例えば、嵐電嵐山駅内にある〈らんぶらレンタサイクル〉さん等に協力をお願いし、地元の方たちが実際におすすめする場所を観光スポットのプラスアルファとしてご案内しています。」

地元の方がおすすめしてくれた場所にはスタッフも足を運び、自分たちの目線でもおもしろいと感じた場所を紹介するようにしているという。自分自身が実際に体験することで、その土地の魅力がしっかりと伝わるという考えのもと、店舗休業日に合わせて地元巡りを行っているとのこと。客観的に土地の魅力を判断する「外」の視点があるからこそ、日常の暮らしの中で育まれたこの土地の魅力を発見することができるのだろう。

「私たちの強みは、メーカーでありながらお客様との距離が近いこと。スタッフ、お客様、そして地域の人たちとつながって、そのつながりを活かした店舗として運営していきたいと思っています。」と、今後の展望を語ってくれた。

これからは嵐山の地に根ざして活動される事業者の方と一緒に、もっとこの地域自体を盛り上げ、この土地の魅力をもっと創出していきたいという。土地の伝統を伝え、文化を育むサイクルがこの場所で生まれ、今、育とうとしている。観光資源を消費するのではなく、新たに生み出していく取組の重要性を感じる事例だといえるだろう。

京都観光行動基準(京都観光モラル)について

京都市及び公益社団法人京都市観光協会(DMO KYOTO)では、持続可能な観光をこれまで以上に進めていくために、「京都観光行動基準(京都観光モラル)~京都が京都であり続けるために、観光事業者・従事者等、観光客、市民の皆様とともに大切にしていきたいこと~」を策定いたしました。今後、京都観光に関わる全ての皆様が、お互いを尊重しながら、持続可能な京都観光を、ともに創りあげていくことを目指しております。

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