仁和寺と旧邸御室を舞台に「第2回京都インバウンドカフェ」を開催しました(2022年10月26日(水))

UPDATE :
2022. 11. 16

SUMMARY

遊休資産に投資し、仁和寺ならではの経験価値を付加することで1泊100万円という値段設定を実現している宿坊「松林庵」。さらには「食堂(じきどう)」を整備する等、利用者や外部の方の意見を取り入れて改良を加えることで利用者増加も実現しています。歴史ある文化財も、建立された当時は最先端だったことを認識し、最新技術の導入、次世代の育成や芸術文化の振興など、未来への継承を意識した取り組みの背景と経緯を学びました。

2022年10月26日(水)、これからのインバウンド向けコンテンツのあり方を考える交流イベント「第2回京都インバウンドカフェ」を開催しました。今回は、1泊100万円の宿坊「松林庵」や、コロナ禍での素早いECサイトの開設、OMURO88清掃登山など、斬新な取り組みが話題の仁和寺が舞台です。
はじめに、国宝の金堂や御殿の他、松林庵、2021年11月に整備した食の文化体験施設「食堂(じきどう)」などを視察した後、仁和寺から徒歩5分ほどの場所にある国登録有形文化財「旧邸御室」に移動して対談とディスカッションを行いました。
今回も、文化体験施設、文化財運営、交通、ホテル、飲食、ガイド、ランドオペレーターなど様々な業種の方にご参加いただきました。

(1)視察:仁和寺内(金堂、御殿、松林庵、食堂など)
※視察後、旧邸御室に移動

(2)対談
「体験」の先にあるもの ~仁和寺の事例から考える、お客様と提供側、それぞれの価値とは~
金崎義真氏(仁和寺財務部管財課・財務部拝観課 課長)
大石哲玄氏(仁和寺総務課・華道課 課長)
コーディネーター:清水泰正(京都市観光協会アドバイザー/インバウンド戦略研究所代表取締役)

(3)ディスカッション

1.対談

対談では、これらの取り組みを中心になって進めてきた金崎氏と大石氏から、特に松林庵整備の背景や経緯、お客様の反応、今後の展望などについてお話をうかがいました。主なポイントは以下の通りです。

維持・改修費が足りない!現実に目を向けたことからはじまった松林庵の整備

  • 仁和寺は天皇家のお寺だったため、檀家がいない寺である。飛び地も含めると24万坪の面積があり、たくさんのインフラを抱えている。主たる収入源を拝観料に頼ってきた中で、インフラの維持・改修費が捻出できなくなるのではという現実に目を向けたことが始まりである。
  • 遊休資産を活用し、いかに収入を生み出すかという課題を解決する手段を考えた結果、松林庵の整備に至った。1泊100万円という金額にこだわりはない。むしろ、天皇家との関係性があるというバリューを活かす意味では、100万より大きい数字を考えていたが、現在の数字に落ち着いた。

宿泊した人にとっては安い、宿泊しない人にとっては高い 顧客側の価値

  • 宿泊すると、境内は9万㎡、有効スペース6万㎡を貸し切れる(一般の拝観終了の午後5時から、拝観開始の午前9:00の間)。実際に宿泊した方からは100万円でも安いと言ってもらえる。一方で、こういった高額なサービスに馴染みがない人たちには割高とみなされてしまう。この価値を伝えることが難しいが、動画なども活用したプロモーションで試行錯誤を重ねている。
  • 仁和寺は888年に創建され、約1200年の歴史があり、史料も約2万点ある。こうした資産からストーリーを掘り起こし、現代流にアレンジした様々な体験を提供している。
  • 例えば、仁和寺を開基した宇多天皇には「亭子院酒合戦」というエピソードがある。寺院で酒を飲むことはできないという先入観があるかもしれないが、このエピソードをもとに、あえて様々な料理と日本酒を組み合わせて楽しむ文化体験などを用意している。

様々な分野のプロを巻き込んだ推進体制の元、まずは形を作って改良を加えていく

  • 松林庵の整備にあたっては日本財団の補助事業を活用した。ここに至る意思決定は、一般的な会社と同じで、決裁を上司へ諮っていく仕組みになっている。
  • 富裕層を迎えるためには、良い厨房があった方が良い、トイレを整備した方が良い、お付きの方が休める施設があった方が良い、といったご意見を色々な方からいただいた。それらをふまえて、元々は蔵だったところを食堂に改装した。文化財の敷地内に新しく建物を建てることは出来ないため、事務資料の保管に使われていた蔵に目をつけ、外観はそのままに内側をまるごと改装することで実現した。こうした生活インフラを整えたことで、松林庵の利用者は4倍ほど増えた。
  • 自分達だけではなく、元ホテルマンや広告関係の方などをメンバーに入れてプロジェクトを進めることで、マーケットインの視点を取り入れている。

次世代への継承と収入を得られる仕組みの両立

  • ・お寺は歴史があることが価値だと思われているが、建立された当初は当時の最先端の施設であり、そうであったからこそ現代まで受け継がれている。したがって、現代の最先端のものを入れていかなければ、将来に継承していくことは難しい。
  •  仁和寺の前まで来てお金が足りなくて帰ってしまう修学旅行生を見かけることがあったため、2021年から、高校生以下は拝観料を無料にして大人の拝観料を値上げした。次世代に、仁和寺のことを知ってもらう機会も作らなければ、将来への継承は難しくなってしまう。
  •  学生用の資料も配布している。今年の秋からは、お寺のお参りの仕方に関する冊子も配る予定で、他の寺社への参拝も促している。
  •  芸術の担い手がいなくなると新しい作品も生まれないし、文化財の修復等もできる人がいなくなるため、仁和寺では新進気鋭の若いアーティストへのスペース貸出や、芸術イベントなどの開催を行っている。昔から仁和寺は「文化サロン」としての機能を担っていたので、今後はカフェのようなものを整備してもよいかと考えている。
  • 今後は仁和寺が中心になりつつ、全国に700ほどある御室派の寺院と連携しながら地方にも人が流れるような仕組みを作りたい。

2.ディスカッション

対談後は5つのグループにわかれて、視察や対談の感想を共有した他、参加者自身が扱うコンテンツの付加価値を高めるための方法についてディスカッションを行いました。
参加者の皆様からお2人への質問も寄せられた他、参加者同士の交流も活発に行われ、会場は熱気に包まれました。

開催後のアンケートでは、

「普段見ることのない施設の見学あり、苦労話あり、事業者様とのふれあいや議論あり、盛りだくさんで有意義なものでした。」
「ビジネス界出身ではない金崎さんが始められた事に興味と親近感が湧きました。この事業を展開される至った経緯と選択された形式が特に示唆に富んでいたと思います。」
「多様な業種の方の参加とネットワーキングが非常に良い機会になった。後続イベントとして参加者の個別事業の紹介があってもよいと考えます。」

といった感想をいただきました。

次回の「京都インバウンドカフェ」は、12月下旬の開催予定です。引き続きご注目ください。

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公益社団法人京都市観光協会 企画推進課 マーケティング担当

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