京都在住の外国人と考える、これからの京都観光(前編)
〜京都観光モラルについての座談会〜

UPDATE :
2022. 12. 20

2020年に始まった新型コロナウイルスによるパンデミック。世界中の人々の移動が制限され、とりわけ観光分野は大きな打撃を受けました。京都も例外ではなく、旅行業や宿泊業はもちろん飲食店や伝統産業にいたるまで、さまざまな産業が苦しい局面を迎えるにいたりました。ここへきて入国規制が大幅に緩和されたなか、インバウンド再開への期待が高まる一方で、混雑やマナーなどの問題の再発を懸念する意見もあります。

京都市・京都市観光協会では、今後も新型コロナウイルス感染症拡大以前に戻すのではなく、かけがえのない京都を未来へと引き継いでいくため、観光事業者・観光客・市民という京都観光に関わるすべての皆さんで一緒に大切にしたい行動基準として「京都観光モラル」を掲げ、その啓発に取り組んでいます。

■京都観光モラル特設サイトはこちら
https://www.moral.kyokanko.or.jp/

今回は、この「京都観光モラル」にもつながる、ポストコロナにふさわしい「新しい京都の観光スタイル」とはどうあるべきか?について、外国人観光客・京都市民の双方の視点を持つ京都在住外国人のみなさんにお集まりいただき、議論することにしました。

参加者紹介

(左)ルディさん(フランス)
フランスとベルギーの国境付近で育つ。フランスの大学で多文化共生を勉強。ミャンマー人の妻と京都に暮らす。

(中央)クリシャーニさん(スリランカ)
10年ほど前に日本人のパートナーと結婚。京都国際交流会館で仕事をしている。

(右)セスカさん(中国)
浙江省出身。仕事はフォトグラファーと京都国際交流会館の行政通訳等。趣味はお寺と神社巡り。

(左)リアムさん(オーストラリア)
同志社大学の大学院生。今年の4月より京都在住。6年前にも京都で暮らした経験あり。趣味はブラジリアン柔術。

(中央)ジュリアさん(アメリカ)
生まれはアメリカで幼少期に来日。日米を行き来して育つ。仕事は翻訳業や通訳ガイド。休日は、観光地巡りを楽しむ。

(右)プラーさん(タイ)
バンコク出身。大学生から京都在住。NPO法人でのスタッフの傍ら、翻訳・通訳も行う。趣味は鴨川でのランニング。

進行・聞き手:京都市観光協会 有松

 

※2022年9月3日に実施しました

【問1】 10月から本格化した日本の入国規制の緩和、 京都在住外国人のみなさんはどう受け止めたのか?

有松 ようやく日本でも少しずつ入国規制が緩和され、10月からはいよいよ入国者の上限撤廃も始まるとされています。 こうした緩和を受け、みなさんは母国への帰国は予定されていますか?

プラ― わたしは来週ようやく一時帰国する予定です。

ジュリア わたしは帰る予定はまだ立てていなかったのですが、そろそろ計画をしようと思っています。

クリシャーニ わたしは来年になってから帰国する予定です。

ルディ フランスでもすでに緩和はされていていつでも帰れる状態にはなっていたのですが、次々とコロナの新しい株が発生していて、もしかしたら日本への入国ができなくなる可能性があったので、まだ帰っていません。

セスカ 中国では規制が厳しく、今わたしが中国に帰ったら日本に帰れなくなるかもしれないので、今のところ帰国の予定は立てていません。

リアム わたしも今のところ帰国する予定はありませんが、もし帰国した場合にスムーズに日本に入国したいですね。

有松 逆に母国のご家族やご友人などから、早く日本に行きたいといった声はありますか?

プラ― SNSなどでも日本に早く行きたいと言っている友人はたくさんいますよ。

ルディ フランスの友人のあいだでは、すでにコロナの話は過去形で話しています。「コロナだったときは」というように。コロナはもう終わっている感覚で、普段はマスクもしていません。すでにもとの生活に戻っている状況です。日本は島国だからこそ入国者一人ひとりについて細やかに管理することが可能ですが、ヨーロッパでは陸続きなのでそれは容易なことではありません。そうした感覚の違いもあるのではないかと思います。

有松 留学生の入国は増えてきていますか?

リアム 留学生はだんだんと増えてきていますね。

ジュリア ただ、この期間に日本への留学を諦めた人がかなりの数いると聞いています。また、アメリカの有名大学でも今年の日本への留学生派遣はやめたという大学もあります。それは日本ファンを失うことになりますし、非常にもったいないこと。日本の将来にとってもすごく大きな損失だとわたしは心配しています。

【問2】新型コロナウイルスによるパンデミックは、 世界や文化、そして生活を、どう変えたのか?

有松 例えばみなさんの国で、マスクや手洗いうがいなどふだんの生活習慣において、コロナ禍 前と後で変化したと感じることはありますか?

クリシャーニ スリランカではもともとマスクをつける習慣はほとんどなく、わたし個人の記憶では販売しているのを見たことさえありませんでした。そこへいきなり「マスクをしろ」と言われて、みんなびっくりしていました。いざ探してもなかなか買えませんし。それが今では、あたりまえのようにみんながマスクをしています。まったく新しい文化が入ってきたという感じでした。

ジュリア 欧米ではみんなマスクを取っているというイメージがありますが、アメリカでは地域によって状況は異なっていて、都市部ではマスクをつけている人は結構います。罰金制でマスク着用が義務化されている州や地域もあり、アメリカでもマスクをつける習慣がついた人もいると聞いています。

有松 なるほど。以前よりマスクは受け入れられるようになった国が多いということですね。コロナ禍による生活様式の変化でいえば、「デジタル化」についてはどんな印象をお持ちでしょうか?

プラ― コロナウイルス感染拡大の観点から、現金を手渡しするのはどうしても気になるところがあったので、コロナ禍においてデジタル化の流れは一気に加速したと感じています。

有松 特に日本ではコロナ禍以前から課題とされてきたことだったキャッシュレス化が進みました。

ルディ フランスでもコロナ禍前はキャッシュレス決済を使う人は少なかったのですが、コロナ禍で急速に普及したと思います。

セスカ キャッシュレス決済について中国はかなり進んでいます。あまりに進んでいるおかげで、スマホだけを持って出かけても、さまざまなアプリを駆使すれば何でも出来てしまいますね(笑)。WeChat や銀聯カード は日本での支払いも出来るようになって、すごく便利です。

プラ― そういえば日本のレジについて思うことがあって、キャッシュレス決済の種類が多すぎて、自分が使っているサービスがあるかどうかを探すのが難しいですね。もう少し統一されるともっと便利になるのではないかなと思います。

有松 レストランや美術館、公共施設などの事前予約システムも増えてきました。これから外国人観光客が再び増えてきたときに、このままだと使いづらいなと感じることはありますか?

リアム 事前予約システムを今後も引き続き導入していくのであれば、英語には対応していないと海外からの観光客が使うことは難しいでしょうね。

ルディ コロナウイルス感染対策としてコンビニやスーパーのレジがセルフレジになったところでは英語は書いてあるところもあるので、これからに期待したいです。

プラー 母国語が英語ではない国の出身者であるわたしのような立場からすると、英語が分からないとやはり不便さを感じます。英語・中国語・韓国語までは多くのサイトでも対応されていますが、できれば今後は希少言語にも対応してほしいですね。自動翻訳も進化していますが、希少言語については翻訳の精度も低いことが多いので。

【問3】 京都在住外国人のみなさんに学ぶ、 京都の習慣に対する外国人の視点

有松 京都に暮らして、習慣や地域のルール等に驚いたことはありますか?

ジュリア 門掃きの習慣ですね。とくにユニークなのは自分の家の前だけでなく、両隣の家やお向かいの家の分も少しだけ掃除するところ。それはとても素晴らしい習慣だと思います。ただ個人的には、せっかくの綺麗なモミジの葉や桜の花びらも、朝一番で掃いてしまうのはちょっと名残惜しい気もしますが(笑)

有松 京都では家の前を掃除している人の姿を良く見ますね。

ルディ あと、京都では夏に涼しくするために家の前に打ち水をしますね。フランスでは水道代がすごく高いので、初めて見たときは近所の人みんながお金持ちなのかと思いました。

プラー わたしはゴミの分別の複雑さですね。外国人から見るとちょっと分かりにくいところもあります。タイではそこまで細かくは分けていませんでしたし、段ボールや瓶、缶などの資源ゴミは自分で持って行って売っていましたから。でも最近ではタイでも分別するようになってきていますし、基本的にいい習慣だと思います。

セスカ わたしは京都でファストフードやコンビニの看板の色を初めて見たときに驚きました。赤ベースの看板は茶色や白、モノトーンになっていました。あとで京都独自の規制があると聞いてなるほどと思いました。

プラー あと京都は高さ制限がありますよね。バンコクでは高層ビルがどんどん建てられているので、どこにいてもビルに囲まれているような圧迫感を感じます。でも京都は条例でビルの高さが制限されているので、圧迫感もなく空が広く感じられます。山の上から街を一望したときも、とても美しいと感じました。それはとても素晴らしいことだと思うので、今後も守っていってほしいと思います。

ルディ 景観を大切にするという点ではフランスと京都は近いかもしれません。フランス遺産になっている建物の周囲では現状と同じような色を塗らなければならないとか、さまざまな規制がされています。そのあたりは京都と似ていますね。外国人はとくに町家を守ってほしいと思っています。町家が壊されていくのはすごくもったいない。すべてを残すことはできないにしても、すべてを失くすこともまた誰も望んでいない。京都の生活文化である町家はできるだけ残してほしいと願っています。

後編に続く)

 

今回の座談会でお伺いしたお話を通じて、世界中の多くの国でポストコロナに合わせた生活習慣や新しい文化が生まれていることが分かり、むしろそれはグローバルな共通体験として、相互理解につながるきっかけになるかもしれないという可能性を感じるお話が伺えました。
いっぽうでデジタル化やキャッシュレス化など、コロナ禍以前から指摘されてきた課題は、パンデミックの影響で前進はしたものの、海外の方がより一層進んでいるようです。これから外国人観光客が日本を訪れた際に感じるギャップが以前よりも広がってしまわないようにしていく必要がありそうです。そうでなくても、身近な文化や生活習慣の違いは、おそらくこれから京都を訪れるであろう外国人観光客の方々も、多かれ少なかれ感じる部分だといえるでしょう。後半の議論では、より具体的で深いレベルでの相互理解につながるアイディアについて意見を交わしました。

京都観光行動基準(京都観光モラル)について

京都市及び公益社団法人京都市観光協会(DMO KYOTO)では、持続可能な観光をこれまで以上に進めていくために、「京都観光行動基準(京都観光モラル)~京都が京都であり続けるために、観光事業者・従事者等、観光客、市民の皆様とともに大切にしていきたいこと~」を策定いたしました。今後、京都観光に関わる全ての皆様が、お互いを尊重しながら、持続可能な京都観光を、ともに創りあげていくことを目指しております。

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